そうこうしているうちに約束の時間になり、正門の向こう側に黒塗りの車が止められた





大志を除いた西城一家はその音で、瞬時に背筋を伸ばし、大志の未来の嫁になるかもしれない令嬢が乗っているであろう車のほうを凝視していた




当の本人はまったくの他人事のように興味など微塵も感じないと、あくびをしながら頭をかいていると、ふとあるものが目に留まった





周りを見渡し、皆の視線が自分にないこと確認すると大志は足音を立てず、そーっとその場から離れた





今日の主役がその場からこっそり、いやあの巨体でこっそりには無理があるが、と消えたと同時に西城家にいるすべての人間の注目の的である車から運転手が降り、後部座席のドアをゆっくりと引き、中にいた人物の姿を現した





衝撃的だった





絶世の美少女だと聞いてはいたが、まさかここまでとはと満は震える右手で口元を覆った





光沢が美しい艶やかな黒髪、ぱっちりしているが大きすぎないつぶらな瞳、すーっと奇麗に通った鼻筋、真紅のように赤いぷるんとした唇、そして雪のように白い肌と桃色の頬





少女たちの夢が全て詰まったような姿の少女が今、目の前で運転手の手を借り、車から降り立った





彼女は車から降り立つと同時に吹かれた風で少々髪や着物が崩れたがその姿さえも美しかった






「見て、お母様、お父様。桜よ、桜!こんな素敵な桜道、わたし生まれて初めてですわ!」





年頃の娘のように両手で飛んでくる桜のはなびらを掴もうとする姿も実に神々しい




この世のものとは思えないほど美しい少女と自分が同じ女性だなんて…と恥ずかしい気持ちになりながらも彼女からひと時も目が離せないでいた




それは満だけではなく他のものたちも同じく、少女の行動をほぅとため息をつきながら眺めていた




というか声まで、まるで鈴が鳴いたような、だが決して不快に感じない、いつまでも耳の奥に残しておきたいほど愛らしい





日本の神々に愛されていると言われても過言ではないほどの美しい少女と、あの大熊みたいな自分の弟が夫婦になるかもしれないというのは夢ではないのかと頬を抓ってみたがもちろん痛い





弟はなんて幸せ者なのだ!!





女に全く興味がない弟もきっと今ごろ彼女の姿に釘付けだろうと、大志のあほ面を拝んでやろうと振り向いた瞬間、心臓が止まったかと思った