季節は春、西城家の正門から母屋の入り口にまでの道に植えられた桜の木々が丁度満開になったこの時期に顔見合わせにと提案したのは母だった





昔からこの桜が満開のこの時期に客人を招くと、どんなにしかめっ面で正門をくぐったとしても見事な春の風物詩を目の当たりにした客人らは呆気にとられ、そして見事な桜だと家主である父を誉めちぎる




どんなに小難しい輩でも西城の桜を見れば絆されると言われるほどこの景色は美しい




普段そういうものに疎い大志もこの桜景色には素直にそう思えた




しかし今日の客人はいつもの手強い交渉相手でもどこかの家元の頑固じじぃでもなく、まだ16になったばかりのご令嬢だ




何も見ても口を揃えて『かわいい』と連呼する同級生の女子らを思い出し、大志は首を傾げた




別にここまで盛大にして迎えんでもいいだろうに…





事の重大さをまったく理解していない当人とは裏腹に西城家の面々は麗しのご令嬢が来るのを今か今かと待ち構えていた




大志が考えていた通り、この桜景色で少しでも事が進みやすくなるようにしたいのはもちろん、大志のあの強面の面たちを少しでも緩和させようとした苦肉の策であることに大志はきっと一生気づくことはないであろう