西城家の花






姉や父に続き、多少話が通じる母まで泣き出してしまい大志は焦っていた




ただ日課の稽古をしてから、準備をしようと考え、腹が空いたから握り飯でも貰おうと厨房まで来たのに、どうしてこうなった





主一家がしくしくと泣き出したおかげで、使用人たちはあたふたしはじめ、どうしたらいいのかと大志に救いの眼差しを向けてきた





どうかそんな目を向けないでほしいと視線を逸らしたが、どこを向いても人に囲まれてしまっているので避けようがない





大志は観念したかのようにため息をつき、いまだに自分の体に抱きつきながら嗚咽している姉の肩を宥めながら力なく呟いた






「…わかりました。俺が悪かったですから、どうか泣き止んでください。姉上と父上の言う通り今日は大人しくしておりますから。でも、腹の虫がおさまる気配を見せませんので、握り飯だけは恵んでいただけないでしょうか?」





さっきから色々と小言を言われていたが、大志の頭の中はひたすら腹減ったとしか考えていなかったのだ





体を動かすと腹が減るのは道理であり、生命の維持にとって腹を満たすのは最も基本的なことだ





腹が減るとそれ以外のことを考えるのが少しだけ、いやかなり億劫になる





だから姉や父の話を大志はまったくもって聞いていなかった、微塵も覚えていなかった





やっと大志がその気になってくれたと安堵した面々はすぐさま中断していた作業を再開させた





だがそれでも弟の言葉を信じられない姉の満は、また姿をくらまさないかと大志の行動を怖い形相で睨みつけていた





サッカーボールぐらいある特大サイズの握り飯を恵んでもらった大志はそんな視線も気にせず5分もかけずぺろりとそれを平らげ、満たされた腹に満足しながら、母と姉の苦労の賜物である背広にようやく腕を通すのであった