流水家のご令嬢といえば、誰もが噂を耳にしたことがあるあの歩く才色兼備とまで呼ばれた娘である




立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花ということわざがあるが、まさに彼女のためにある言葉だと断言してもいいほど見る人を魅了させる




聖も遠目ではあるが、一度だけ姿を拝見したとき彼女は別の世界の人間なのかもしれないとわけのわからぬことを考えたほどだ




それほど美しい娘なのだ




しかも華はもちろんのこと、お茶やお琴、更には弓の才能もあるというあらゆる芸道の神に愛されている彼女が、大志の嫁にと申し込まれたときは開いた口が半日ぐらい塞がらなかった




夫はまたとないチャンスとしてすぐに返事を返したが、聖は疑問しか浮かばなかった




何故かのご令嬢が、大志のような息子の嫁にと申し込んできたのであろう




あれぐらい美しく、才能がある娘なら大志ではなくもっとよい殿方との縁談もあったであろうに、なのに何故あんな筋肉しか取り柄がない息子を選んだのであろう





昔からうまい話には裏があるというが、まさかこれも…と疑ってはいたが、着々と話が進められ、今日に、西城家と流水家の、二人の若人たちの見合わせ日まできてしまったのである





ぶっちゃけ裏があってもいいから、嫁が欲しいというのが本音だ





それぐらい大志の嫁探しは難色を示していた、もう半ば諦めモードだった





今までの苦労を思い出すと、この場を諫めなければいけないというのに何故だが涙が溢れてきた