心地良い温かさ。
嫌な蒸し暑さもない。
遠くで聞こえる子供たちの声。
並んで歩く博貴と雛乃。
   

「亮どうしてるん?」


俯いたまま博貴へ声をかける。。
   
「元気や。そんなに気になるん?」

ぎこちない会話。
お互いの心の中を探るような会話。
   
「そんなんやない。せやけど思い出したんやろ?」
   
「ああ。全部な。」

博貴からの返事に胸を締め付けられる思いの雛乃。
   

「大丈夫や。あいつなら。」


沈んだ空気を明るくするかのようにしゃべり続ける博貴。
   
「あいつは負けへんよ。このことも乗り越えられるはずや。」
   
「うん…。」

笑って話す博貴。
今だに顔を上げられない雛乃。
   

「そんなに気になるなら一度会いにいったらええやん。」

「無理やわ。」


引きつる顔。
   
「どうしてや?」
   
「合わす顔ないねん。…どんな顔で会ったらええかわかれへん。」

苦しそうな雛乃の表情。
   

「顔あげてみん?」



顔を上げ博貴の顔を見つめる雛乃。
   

「笑ってみん?」


ぎこちない笑顔。
   

「にぃーって。」


雛乃の頬をつまみあげる。
   

「わろうた顔で会うたらええねん。」
 
「章…。」


困惑した表情。
博貴から背を向け歩きだす。
   

「ごめん。博貴が章大に見えてしもうた。似てへんのにな。」


震えた声。
唇を噛み締める。
   
「似てへん?そやろうな。俺のほうが男前やもん。」

視線を合わせず雛乃の手を握る博貴。
   
「一人でよう行けへんのなら俺が一緒に亮のとこまでいったる。」

強く握りしめる雛乃の手。