世子様に見初められて~十年越しの恋慕



亥時の刻(ヘシ:午後九時から午後十一時)も更けていき、ソウォンは寝衣に着替えていると、寝床を整え終えたチョンアが枕元に明かりを灯す。

「お嬢様、病み上がりなのですから、無理せずお休みに………」
「分かっているわ」

ソウォンは身支度を済ませ、溜息を吐く。
休まなければいけないことは分かっていても、眠くないのだから苦痛でしかない。

「もう下がっていいわ」
「はい、お嬢様。では、お休みなさいませ」
「ん、お休み」

チョンアはゆっくりと扉を閉め、部屋を後にした。
ソウォンはお気に入りの匂い袋を枕元に置き、横たわる。
けれど、すぐに眠気が起こる訳でもなく、暫くじっと天井を見つめていた。
すると、部屋の外で微かに物音がしたかと思えば、咳払いした声が聴こえた。

「ソウォン、起きているか?」
「…………あ、はい、まだ起きておりますが、どうなさいました?」

戸越しに聴こえたのは、兄の声であった。
母屋にいる両親に聴こえぬように小声で囁くようにしているところをみると、何かあるのかもしれないと思ったソウォンは、すぐさま扉を開けた。

「すまぬ、このような時間に」
「いえ、構いませぬが、如何されましたか?」

ソウォンを目にした兄のセユンは動揺した様子で、ソウォンに耳打ちした。

「へっ?!」
「しっ!」

セユンの言葉に驚いたソウォンは、思わず声を上げてしまった。

「ソウォン?」
「あ、…………はいっ、すぐに支度します」
「羽織る程度で良いとの事だから……」
「…………はい」

セユンは静かに扉を閉める。
すると、ソウォンは血相を変えて慌て始めた。

「えっと、えっと………」

ソウォンは外出用のチマを急いで穿き、しわ伸ばしの為に掛けてあるチョゴリをソッチマ(下着)の上に羽織った。
すると、

「ンッンンッ」

扉の外から咳払いした声が聴こえた。

「ソウォン、………入るぞ」

静かにゆっくりと扉が開く。
ソウォンは緊張のあまり、指先が震えていた。