世子様に見初められて~十年越しの恋慕



「権力と暴力は対になっているようなものです。その使い方を間違えば、多くの者が苦しみます。ですが、正しい使い方さえすれば、決して悪いものではなく、多くの者を救う手立てになり得るのです」
「うむ」
「両班の女性が表立って商売することが問題視されるように、地位や名誉があっても決して自由であるとは限りません」
「………そうだな」
「いつの日か、自分の歩む道を自ら決められる時代となれば、自ずと活気に満ち溢れた国になる事と存じます」

自分の人生に照らし合わせ、ソウォンは丁寧に答えた。
この国をこう変えたい、こんな風にしたいなどとは口が裂けても言えない。
そんな事を口走ったら、それこそ謀反に当たる。
慎重に言葉を選び、けれど、ソウォンなりの考えを付加したのだ。

何故、このような質問をされたのか。
何か、気がかりになるような事でもあったのか。
ソウォンは世子の胸の内を読み取ろうと、顔を更に傾け、揺れる瞳の奥を推し量ろうとすると。

「やはり、そなたは………」
「………………っ」

大きな溜息を吐いたヘスは、ゆっくりとソウォンの額に口許を寄せた。
両腕に拘束されているだけでも心臓が飛び出そうだというのに、肌と肌が直接触れてしまった。
それも、世子様の口許が………。

ソウォンが顔を傾けたばかりに、恐れ多くも世子様の口許を犯す事態に陥ったことに、ソウォンの心臓は今まさに停止寸前であった。
すぐさま許しを乞いたくても、体が密着している状態では無理というもの。
振り払うことも出来ず、このような状態で謝罪の言葉を口にすれば、それこそ大罪に値する。
ソウォンの心臓はますます早まり、悲鳴を上げていた。
必死にきつく瞼を閉じていると、ゆっくりと口許が離されていくのが分かった。
ソウォンはすぐさま距離を保とうと体を仰け反らすと、落馬してしまうと感じたヘスはソウォンの体を抱き寄せた、その時。

ソウォンの視界に美顔が現れ、唇に柔らかい感触を感じた。