ソウォンの肩に掛けられているチャンオッ(長衣)が風に靡く。
「寒くないか?」
「…………はい、大丈夫です」
耳元で囁かれることに慣れてないソウォンは擽ったさを覚え、肩が無意識に上がる。
そんな些細なことに満足な表情を浮かべるヘスは、ソウォンを長い腕で包み込んだ。
眼下に広がる景色を暫し眺め、ヘスはゆっくりと口を開く。
「そなたの眼には、この国がどのように映っているのだ?」
「………と申されますと?」
ソウォンは質問の真意が分からなかった。
言葉通りに捉えたとして、何と答えるべきか。
困惑するソウォンは、視界の隅で世子の表情を窺おうとほんの僅かに首を傾けると。
「そなたは他国とのやり取りの中で、この国の欠けている部分が見えるであろう?」
「欠けている部分など………恐れ多いでございます」
「ここにはそなたと私以外、誰もおらぬ。良いから、申してみよ。そなたの心眼にはどのように映っているのだ?」
「……………」
世子様の声は、何かを探っているような感じは見受けられない。
それどころか、本当にただ単に私の考えが知りたいようだ。
都を見下ろす瞳はとても澄んでいて、この国を治める強い意志も感じられた。
「僭越ながら申し上げます。この国には素晴らしい農作物や技術が沢山ございます。それらは、近隣の諸国でも高い評価を受けており、今後も国交の要になると思われますが………」
「………ん?どうした、良いから申してみよ」
「はい。この朝鮮という国よりも、…………とある国では医術が優れており、とある国では染色や織物がともて盛んだそうです」
「うむ」
「それらの技術は男性だけではなく、女性の身であっても習得でき、しかとその地位を確立出来ているのだそうです」
「うむ、私も聞いたことがある。今の我が国では考えられぬな。だが私は、民の命は皆尊いと思う。権力を掌握する大臣達は奴婢の者らを虫けらのように扱うが、見ていてあまり良いものではない」
ヘスは溜息を零し、瞳を潤ませる。



