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ソウォンは長い眠りから覚めるようにゆっくりと瞼を押し上げると、戸越しに朝日が差し込む室内には、ソウォンの好きな連翹(ケナリ:レンギョウ)が活けられていた。
鉛のように重い体を起こし上げ、布団上で座位を保つ。
普段はなんてことない所作が、全神経を集中させないと行えないことに驚愕した。
暫し放心状態で視点が定まらずにいると、桶を手にしたチョンアが姿を現した。
「ッ?!お、お嬢様っ!!お目覚めになられたのですねっ!」
桶から湯が零れ落ちることも気にせず、チョンアはソウォンのもとに駆け寄った。
「私が誰だか分かりますか?」
口早に問いかけるチョンア。
今にも泣きそうな瞳がソウォンを捉えた。
「………ん、心配掛けて………ごめん、ね」
久しぶりに発したソウォンの声は、弱々しく掠れていた。
「いいえ、良いのです。お嬢様がっ、ご無事であれば………」
滅多なことでは涙など見せないチョンアが、堰を切ったように嗚咽しながら涙する。
次第に脳内が鮮明になって来たソウォンは、チョンアからここ数日の出来事を聞いた。
「奥様にお知らせし、すぐに煎薬を用意して参ります」
「………ん」
チョンアは母屋へと駆けて行った。
あれは夢だったのかしら?
横たわる私の枕元に、あの人がいた気がする。
優しく頭を撫でて、手を握って下さった記憶がソウォンにはあった。
けれど、チョンアの話では、身内以外この部屋には誰も来ていないという。
それもそのはず。
結婚前の両班の娘の部屋になど、誰も入ることなど許されない。
それが例え、兄の友人だとしても。
庭先で会うことはあっても、部屋に入れることは厳禁とされている。
ソウォンは、やはり夢でも見ていたのだと納得し、布団を捲ろうとした、その時!
「ッ?!」
ソウォンの手首に見慣れぬものがあった。



