両手を擦り合わせ、自分の息を吹き掛けて手先を温める。
その手を再びソウォンの頬へと伸ばす。
優しく包み込みながら、切に願った。

『一日も早く元気になれ……』

少し乱れている髪を横に流し、ソウォンの手を握ろうとした、その時。
ソウォンの眉根が僅かに動いた気がした。

「ソウォン?………ソウォン、私の声が聴こえるか?」

静寂な室内に焦りが滲む声が響く。
ソウォンの名を何度も口にしながら、しっかりと手を握りしめた。
頼む、目を開けてくれと、何度も心の中で唱えながら。
すると、目元だけでなく指先も僅かに動き始め、確実に反応を見せた。
諦めず、根気よく声掛けすると、薄っすらと瞼が開き始めた。

「ソウォン、………ソウォン、私だ。私が誰だか分かるか?」

懸命な呼び掛けに応えるかのように反応を示す。
僅かに開かれた瞳で、声の主を探すソウォン。
それに応えるように顔を近づけた。

「私だ。………分かるか?」

その優しい声音に反応するように、ソウォンの顔が僅かに上下した。

「すまぬ。すぐに来るつもりだったのだが……。そなたがこのような状態だとは知らず、来るのが遅くなってしまった。許してくれ……」


ソウォンの手を握りしめているのは、世子のヘス。
王宮を抜け出し、ソウォンの元にやって来たのだ。

氾濫の調査を終えたヘスは無事に王宮に戻ったのだが、出先で受けた毒の効能を絶つため、王命で三日間かけて薬湯に浸かり、毒を抜いていたのだ。
それゆえ、すぐにソウォンの元に駆けつけることが出来なかったのだ。

次第にゆっくりと瞼が押し上げられ、彷徨う視線がヘスの元へと辿り着く。
ヘスは愛おしそうに何度もソウォンの頭を撫でた。

ソウォンが昏迷状態に陥った為、チョンアとユルは兄のセユンにだけ事の次第を話したのだ。
そして、昏迷に陥った原因が、もしかしたら世子様との関係にあるのかもしれないと思ったのだ。
ソウォンは軽々しく胸の内を口にしたりしない。
それは、両班の女性なら当然なのだが、相手が世子様とあらば尚の事。

セユンはありとあらゆる手を尽くして、世子であるヘスの元に書を届けて貰ったのである。