曼陀羅華の毒が作用しているのか。
それとも、無理に瘀血を排出させたのが間違っていたのか。
ソウォンは昏迷状態に陥ってしまった。
母親やチョンアの声にほんの少し反応する様子をみせたかと思えば、再び深い眠りに。
あれほど眠ろうと努力した時は全く眠れなかったのに、全ての事を受け入れ、諦めたソウォンにとって、生きる力を失ったかのように、とても弱々しい呼吸である。
丸一日経っても、ソウォンに変わった様子は見られない。
青白い顔で静かに眠っている。
このまま永遠の眠りについてしまうのではないかと、チョンアは不安に陥っていた。
旅先の出来事を詳しく話していない為、ソウォンの両親は、疲れが溜まっているのだろうと思っている。
チョンアはあえて普段通りに振舞っていた。
けれど、ソウォンの部屋にいる間は片時も離れず、冷え切ったソウォンの手足をさする。
脊髄反射はみられるものの、目を覚ますことは無い。
亥時(ヘシ:午後九時から十一時)の刻。
ソウォンの部屋に兄のセユンが姿を現した。
「ここは私が見るゆえ、もう休むとよい」
「ですが……」
若様にお任せする訳にはいかないと思ったチョンアだが、逆らうことは出来ない。
セユンが顔を横に振った為、仕方なく任せることとなった。
「何かございましたら、お声掛け下さい。……では、失礼致します」
深々とお辞儀したチョンアは、渋々その場を後にする。
セユンは庭先に出て、チョンアの姿が母屋の向こうに消えたのを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。
ソウォンの枕元にゆっくりと近づく。
少し離れた所にある燭台から淡い明かりが届くだけで、室内は薄暗い。
オンドル(温突:床下暖房)が効いているお陰で足元は温かい。
枕元に静かに腰を下ろすと、見るからにやつれたソウォンの姿があった。
「……ソウォン」
絞り出したかのような弱々しい声。
胸の奥が抉られたように痛みを帯びる。
優しくそっと頬に手を添えると、少しひんやりとしている。



