「お嬢様は幼い頃に原因不明の高熱に魘され、生死を彷徨われました。国内にある薬剤では症状が改善されず、長く高熱が続くと脳に悪影響が出ると言うので、内医院(ネイウォン:宮中の医薬を担当した官庁)と弘文館が共同研究していた薬を幾つか試されたのです」
「弘文館?」
「はい。お嬢様の御父上は弘文館の教授をしておられ、勿論その薬剤を処方するにあたり、王様の許可を取られてのことと伺っております」
「それで?………ソウォンはどうなったのだ?」
「はい。熱はすぐに下がりましたが、副作用で全身が腫れた状態になり痛みが酷く、それを取り除くために麻沸散(マビサン:麻酔薬)を用いたのですが殆ど効かず……。仕方なく………曼陀羅華を使用したのです」
ヘスは痛々しい情景が目に浮かび、顔を歪ませた。
「漢陽にいる名医や内医院の医官でさえ匙を投げたほどでしたが、次第に回復して行き、ひと月ほどしてお元気なお姿になられたのです」
チョンアは足の裏(中央からちょっと上の窪んだ場所)に別の鍼を刺した。
「曼陀羅華は阿片(アヘン)と同じで中毒症状に陥ります。少量でも害を及ぼすのですが、それを何日にも渡って服用すれば、当然悪影響を及ぼします」
「では……」
「はい。その時に受けた害が体内に蓄積している為、少量でも危険に陥ります」
「何だとッ?!」
チョンアは怒り狂いたい衝動を寸での所で堪え、涙で視界が歪みながらも必死に鍼を内踝(くるぶし)に刺した。
ヘスは拳をぎゅっと握りしめ、チョンアに言い寄る。
「ソウォンは助かるのだろ?………死にはしないよなっ?!頼むっ、どんな手を使ってでも構わぬっ!必ず、必ず助けてくれっ!!」
室内にヘスの発狂にも似た声が響き渡った。
切なる願いはチョンアとて同じ。
何が何でも助けたい。
助ける以外、考えられなかった。



