世子様に見初められて~十年越しの恋慕



ヘスの姿を見たチョンアとユルは、ソウォンの元に駆け寄りたい衝動をぐっと堪え、部屋に入るとすぐに丁寧に挨拶をする。

「すまぬ。私を助けた為にこのような……」

ヘスはくぐもった声を漏らす。
チョンアは押し寄せる感情を必死に堪え、やっとの思いで言葉を紡ぐ。

「世子様、お嬢様の傍へ………宜しいでしょうか?」
「勿論だ」

チョンアは伏せた顔をすぐさま上げ、ソウォンの元へと。

「お嬢様っ、チョンアが参りましたよ?………お嬢様っ」

既に土気色のソウォンの顔を見て、チョンアの瞳に涙が滲む。
ソウォンの手を握ろうと震える手をそっと伸ばすと。

「そなたは曼陀羅華という毒を知っているか?」
「ッ?!もっ、勿論知っておりますが………えっ?もしや、…………お嬢様がっ?!」

ヘスの言葉にチョンアは狼狽し、ヘスと視線を絡ませた。

「すまぬ」
「っ……」

チョンアはすぐさまソウォンの脈を取り、肘の内側と足首を確認し、そしてゆっくりと瞳孔を確認する。

「臣下から聞いたのだが、解毒薬が無いというのは本当なのか?」
「…………はい、ございません。催吐薬や利尿薬を処方して、毒を体外に出すほか……」
「では、その催吐薬や利尿薬で治るのだな?」
「…………はい、一般的には」
「………一般的とは、どういう事だ?」

一瞬安堵したヘスであったが、チョンアの言葉に顔色が曇る。
チョンアは胸元から手のひら程の大きさの薄い木箱を取り出し、蓋を開ける。
中から三寸程の長さの鍼を取り出し、下肢の内側(脹脛の下)に刺した。
そして、ゆっくりと口を開いた。