世子様に見初められて~十年越しの恋慕



「何だっ、何の毒だ?」
「恐らく、曼陀羅華ではないかと……」
「曼陀羅華……?」
「はい、世子様。阿片(アヘン)と同様の症状が出るゆえ、我が国では違法のものです」
「何っ?!」
「天竺(テンジク:現在のインド)が原産で、清国から密輸されていると聞いた事がございます」

ヘスは自分の身に起きた症状を思い返していた。

「解毒薬はあるのか?」
「………無いと記憶しております」
「何だと?」

今にも息絶えそうなソウォンの手を握り、ヘスはヒョクに指示を出す。

「私を助けてくれた者は、この娘の連れだったか?」
「はい、世子様。ユルと申す者です」
「その者は今どこに……?」
「もう一人の連れが待つ旅籠に戻った筈ですが……」
「すぐに連れて参れっ!」
「二人ともですか?」
「そうだ」
「承知しました」

ヘスは湯で温めた布を固く絞り、包み込むようにソウォンの手を覆った。
更に足先も同じように温まるように何度も何度も繰り返し包む。
幼い頃に凍った池に落ちた時に、王妃である母が同じ方法で温湿布をしてくれたのをうろ覚えに記憶していた。

ヒョクは別の部下に指示を出し、温突(オンドル:朝鮮時代の床暖房)に火をつけさせた。
次第に床が温かくなるが、ソウォンの体は一向に温まらない。

ヘスはいてもたってもいられず、ソウォンに必死に呼び掛けていると。

「世子様、娘の連れの者が参りました」
「通せっ」

ヘスの声が室内に響くと、血相を変えた男女が姿を現した。