完全に毒が抜けきって無いのか、ヘスはまだ軽い眩暈のようなものを感じていた。
だが、一刻の猶予も無い。
毒の知識が殆どない世子にとって、ソウォンの命を救う事以外考えられなかったのである。
鈍痛のような重く軋む体で一歩一歩確実に前に進む。
山道を通れば見つかってしまうだろうと考えた世子は、ただひたすら道なき道を進んだ。
背中に感じるソウォンのぬくもりがとても冷たい。
もしかしたら、息をしてないのかと心配になり、時折ソウォンの心音に耳を傾ける。
既に脈診が取れないほど、ソウォンの息は僅かなものになっていた。
辺りが完全に明るくなった頃。
漸く上常山城の城壁が視界に入った。
世子は首から下げている笛を吹き、己の存在を知らせる。
からっと晴れた山空に一際甲高く響く笛の音。
世子は城壁伝いに駆け上がり、鎮東門(チンドンムン:東門)へと辿り着いた。
すると、笛の音を聞きつけた親衛隊の者が世子とソウォンを出迎える。
「世子様っ!!」
「私は大丈夫だっ、この者を助けねば……」
世子はソウォンを一旦下ろし、そして大事そうに抱え上げた。
山城の殿閣へと駆け上がると、血相を変えたヒョクが駆け寄って来た。
「世子様っ!!」
「ヒョク、この者を助けてくれっ!何としてでも助けねばならぬっ!!」
既に土気色に変わりつつあるソウォンの顔を見たヒョクは、大きく頷き殿閣へと先回りした。
寝床の準備が整った所に世子がソウォンを抱えて現れる。
そっとソウォンを布団に下ろすと。
「ヒョク、これが何の毒か分かるか?!」
結び目を解き、傷口をヒョクに分かるように見せた。
ヒョクはその部分にそっと触れ、鼻先を近づける。
ヘスは意識を手放すまでの出来事を説明すると……。
「これは……」



