世子様に見初められて~十年越しの恋慕



 * * *

肌寒さを覚え、重い瞼を押し上げる。
既に日は落ち、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。
微かに差す月明かりを頼りに辺りを見回すと……。

「ッ?!……ソウォンっ!」

ヘスの足元に横たわるように彼女がいた。
その体は氷のように冷たく、呼び掛けても反応が無い。
腕はだらんと力無く垂れ下がる。

無意識に首筋に指先を当てると、僅かに脈を感じた。

ヘスは自分が着ている上衣を広げ、ソウォンの体に掛けた。
そして、倦怠感がまだ残るものの意識はしっかりとある。
すぐさま枯れ枝を拾い集め、火を熾した。

「ソウォンっ…………ソウォンっ!」

背中や腕を摩り、必死に呼び掛けるが反応が無い。
自分のパジもそうだが、ソウォンのパジも濡れている。
記憶を辿ると、彼女に支えられながら川を渡った記憶が微かにある。

ヘスは躊躇なくソウォンのパジとポソンを脱がせ、自分の上衣でソウォンを包んだ。

露わになった足先。
月明かりの中でも分かるほど色白で、とても華奢な足首をしている。

炎に手をかざし指先を温め、彼女の足先を包み込む。

「頼む………目を開けてくれ………」

春を迎えたとはいえ、山は木々に覆われ気温も下がる。
更に半身濡れた身では体温を奪われるのも当然だ。

鹿や梟の声が闇夜に響き渡り、心細さに陥る。

ヘスには手当ての心得など無い。
常に護衛の者が傍にいる為、剣術の心得があったとしても医術の心得など考えた事も無かった。

ぐったりとしている彼女の体を支え、冷たい頬に手を添えた。
すると、ソウォンの口元に浅黒いものが……。