「先回りしないと……」
世子が斜面を駆け下りるのを見て、ソウォンは来た道を思い出していた。
「確か少し戻った先に分かれ道があったわよね?」
独り言を呟きながら、ソウォンは必死に駆け出していた。
小枝が体に当たる事すら気にならぬほど、無我夢中で先を急ぐ。
分かれ道を左に折れ、その先を少し行った所に川へと下りれる小道がある。
世子が向かった斜面の方向は、ユルが危険だと言っていた川の方向だ。
けれど、仕方ない。
世子と合流せぬ事には、何も始まらないのだから。
息を切らし、川へと続く小道を駆け下りていると。
「ッ?!」
川へと下る途中の岩陰に黒い布地を見つけ、慎重に様子を窺うと、そこに人が蹲っていた。
ソウォンは慌てて駆け寄り、声を掛ける。
「大丈夫ですか?ソウォンですっ!お気を確かに……」
「………ソ……ウォン……?」
苦しそうに顔を歪め、呼吸が浅い。
すぐさま手を握ってみると、既に手のひらに脂汗が滲んでいた。
「急がなきゃ……」
ソウォンは辺りを見回し気配が無いことを確認して、世子の腕を肩に回す。
「世子様っ、もう少しだけ頑張って下さいっ」
既に意識を手放しつつある世子の体を支え、必死に川へと下りた。
ユルが川は危険だと言っていた。
恐らく、追手が探すだろうと踏んでの事だ。
「それなら……」
再び斜面を登る体力は無い。
一人ならまだしも、世子を抱えてとなると無理がある。
普通なら川沿いを下るのがいいだろう。
飲み水が確保出来るし、岩が多いお陰で身を隠すような場所が沢山ある。
だが、ユルは危険だと判断した。
絶大な信頼をおくユルが危険だと言ったのだから、それに従うのが一番だ。



