* * *
「お嬢様っ」
「どうかしたの?」
「今から私が言う事をよく聞いて下さいね?!」
「えっ?………えぇ、分かったわ」
ユルは長い腕でソウォンの体を茂みに隠し、気配を殺して視線を固定した。
「私は今から世子様達を助けに行きますので、お嬢様は世子様を安全な場所にお連れして下さいっ」
「えっ、どういう事?」
「説明している暇はありません。いいですか?山道や川沿いは危険です。人目に付かぬ道なき道を進んで、チョンアの元に必ず戻って下さいませっ」
「ユルは?………ユルはどうするつもりなの?」
「私の心配はいりません。世子様の護衛の者と一緒に、必ずお嬢様の元に参りますので……」
「…………本当ね?約束よ?」
「はい、お嬢様」
ソウォンとユルはチョンアを宿屋に残し、採掘場周辺を探っていた。
人目に付かぬように山間のどこかに小屋があると思っているソウォン。
従来の山道ではなく、獣道のような狭く険しい道をあえて進んでいた。
すると、急斜面に差し掛かった所で事態は急転した。
ユルの視線の先には複数の武装した輩に襲われている者がいるのだ。
昨日の話からして、襲われているのは世子様達だと悟ったユル。
密かに製粉所らしき小屋を探す最中、敵方に見つかってしまったのだろう。
ユルはソウォンをその場に残して、急斜面を駆け下りて行った。
ソウォンの視線の先にはユルの肩越しに数人に襲われている人を捉えた。
「ッ?!彼が、…………世子様?」
顔を覆っているせいで、一目で世子だとは分かり兼ねる。
だが、状況からしてそうなのだろう。
ユルの危機管理能力は秀でている。
それゆえ、ソウォンは疑う事もせず、ユルの言葉通り、茂みの陰から状況を把握していた。



