素早く馬に乗り、その場を離れようと馬の腹を一蹴り。
すると、馬の左脚に矢が突き刺さった。

馬は前脚を高く上げ、苦しそうに鳴きながら顔を大きく左右に振った。
矢が刺さった痛みで馬は暴れ出し、ヘスは勢いよく地面へと叩きつけられた。

それを待ってましたと言わんばかりに追手が駆け寄って来る。
ヘスは強打した痛みを堪え、剣を抜いた。

白金に輝く剣。
刃の根元に龍の紋章が描かれている。

カキン、カキンッと甲高い音を立てながら、刃先が交わる。
男たちの荒い息と共に剣が空を切る音が耳元を掠めた。

そして、一人の男がヘスに剣を振り下ろす。
ヘスは身を捩ってそれを交わしたが、すぐさまもう一人の男が剣をヘスの腹部目掛けて衝いて来た。
咄嗟に態勢を立て直し剣先を避けたものの、脇腹を僅かに剣先が掠めた。

すると、ヘスに襲い掛かる男の背に一本の矢が突き刺さった。
顔を歪ませ、苦しそうにその場に倒れた。
その直後、風の如く現れた一人の男がもう一人の追手の男に剣を振り下ろす。
素早い動きで剣を封じ、すかさず長い脚で回し蹴りをくらわした。

「お逃げ下さいっ」

ヘスは手助けしてくれた者が何者か分からなかったが、一先ずその場から立ち去る事にした。
ヘス同様、布地で口元を覆い、人相は分からない。
だが、体格からして何となく分かる気がした。

ヘスは険しい斜面を駆け下り、追手の目を欺く為、山道ではなく深い茂みの方へと向かった。

「っ……」

痛む腹部、軋む体。
霞む視界、切れる息。

日々剣術の稽古をしているとはいえ、さすがに手負いには勝てない。
ヘスは腹部を押さえ、岩陰に蹲った。