「そろそろ参りましょうか」

漢陽へと帰る支度が整い、水蛇商団を発とうとしているソウォン達。
商団の行首達が見送る中、馬に跨り、市場通りを北へと向かった。

街外れに差し掛かり、辺りには木々が増えて来た。
昨日同様、山を幾つも越えねばならず、漢陽までの道のりは遠い。

少しずつ道が険しくなり、道向こうから岩を載せた荷車がやって来た。

「お嬢様、山側へ……」
「ん」

前を行くユルが、荷車とすれ違う際に崖から落ちぬようにと気遣う言葉を掛ける。
山道は狭く、荷車とすれ違うのがやっとだ。

山側に避けて、荷車が通り過ぎるのを待っていると。

「チョンア、ユルっ……。やっぱり、このままでは帰れないわ」
「えっ?!お嬢様、……まさか?!」
「えぇ、そのまさかよ」

ソウォンは手綱をきつく握りしめた。

荷車が通り過ぎ、辺りに人気が無いことを確認したソウォン。

「ユル悪いけど、採掘場の近くに怪しい小屋が無いか、調べて来て」
「小屋ですか?」
「えぇ。採掘した岩を粉砕して、製粉出来るような小屋」
「……回青がそこで出来ているという事ですね?」
「ん」

世子には首を突っ込むなと言われたが、一つ返事で納得出来るものではない。

「お嬢様、どうかお考え直し下さいませっ」
「ごめんね、チョンア。そんなに長くはかからないわ。数日遅くなっても大して変わらないでしょ?」
「そんな事はありませんよ!旦那様も奥様も、お嬢様のご帰宅を首を長くしてお待ちの筈です」
「………では、二日。今日明日調べて分からなかったら、諦めて帰るわ」
「…………本当でございますね?二日でございますよ?」
「えぇ、約束するわ」

盛大な溜息を零すチョンア。
好奇心が旺盛なのと同じくらい、頑固さも並外れている。

かくして、ソウォン達はまたしても寄り道する事となった。