ヘスが上衣を羽織ろうとすると、部屋の戸が勢いよく開いた。

「お嬢様いらっしゃいますか?……えっ?…………もっ、申し訳ございませんっ!!」

ソウォンの姿が無いことに驚いたチョンアは、血相を変えてユルの部屋に飛び込んで来た。
だが、二人を視界に捉え、予想もしない状況に狼狽えてしまった。

どんな経緯で今に至ったとしても、世子の素肌を見てはならぬ事くらい理解出来る。

まだ上衣を着ていないヘスは含み笑いをしながら、上衣を羽織った。
ソウォンもまた狼狽え、チョンアの元に駆け寄ろうと立ち上がったが、上は男物のチョゴリ、下は……夜着のソッチマ姿。
自分の格好が誤解を招いているのは明らか。
慌てて腰を下ろし、両手で顔を覆った。

「夜遅くにすまなかった。夜が明けたら、また来るゆえ」
「……はい、世子様」

ヘスは何事もなかったかのように腰を上げた。
そして、部屋の入り口で顔を伏せているチョンアにそっと呟く。

「あの者は何も悪くない、責めないでやってくれ。それと、驚かせてしまったようだ。温かい茶でも飲ませてやってくれ」
「…………はい、承知しました」

ヘスは振り返りソウォンを一目見てから部屋を後にした。

放心状態のソウォンとチョンア。
先ほどまでの出来事は夢だったのだろうか?そんな風に思えていた。
そこへ、ソウォンを探しに出ていたユルが姿を現した。

「お嬢様っ、お怪我はありませんか?!」

ヘスが部屋の戸を閉めずに出て行った為、ユルは許可を得ずに部屋へと入ってしまった。

「もっ、申し訳ございませんっ、お嬢様っ!!」

ソウォンがまだ夜着姿だった為、ユルは慌てて部屋を飛び出した。

「すぐにお召し物をお持ち致します」

漸く正気を取り戻したチョンア。
すぐさま隣の部屋に行き、ソウォンの服を手にして戻った。