世子様に見初められて~十年越しの恋慕



「これは、本当に回青なのか?」
「………はい、間違いありません」
「何故、そう言いきれる」

指先に付着した銀白色の粉の感触を確かめるように指先を擦り合わせるヘス。
ソウォンは一瞬考えを巡らせたが、嘘を吐く事は許されないと悟った。

「私共は商いをしており、回青も扱った事がございます」
「それは、誠か?」
「はい」
「だが、そなたは以前に“両班”だと申してなかったか?」
「………それも間違いではありません」
「それは一体、どういう事だ」

ヘスが疑問に思うのも無理はない。
普通に考えたら、ありえない事だ。

ソウォンは返答に困り、視線を泳がせると。

「お嬢様っ!」
「チョンアっ……」

三頭の手綱を手にしたチョンアが現れた。
すぐさまユルが手綱を貰い受けると、心配そうな表情を浮かべるチョンアが駆け寄る。

「何事ですか?……お嬢様」
「何でもないわ。心配しないで、チョンア」
「ですが……、こちらの方々は……?」

ソウォンが体躯のいい男どもに囲まれている為、チョンアが心配するのも当然だ。

ソウォンは考えに考え、一つの答えを導き出す。

「一先ず、ここにいても何も解決しませんので、別の場所に……」
「別の場所とは?」
「もうじき陽も暮れます。私共は宿屋に参りますが、如何されますか?」
「………そうだな。話の続きも必要だし、参るとしよう」

ヘスの言葉にヒョクが反応した。
“世子様”と声を掛けたいが、寸での所で思いとどまった。
そんなヒョクを窘めるように首を横に振るヘス。

「一先ず、そなたらについて参るゆえ……」
「承知しました」

ソウォンはヘスに深々とお辞儀し、チョンアの手を取りその場を後にした。