「嬪宮とは、知っての通り、十年間夫婦ではあるが、その何だ……、夫婦ですべき事は一度もない」
「……?」
「いや、違うな。嬪宮に限らず、今日までそういった類のものは触れてない。わざと遠ざけて来たし、この身は潔白だ。……って、私は何を言ってるのだ?」
「……えっと、……?」

わざととぼけているのか、本当に分からないのか……。
理解に苦しむような表情を覗かせるソウォンに痺れを切らしたヘス。
ソウォンの両肩をガシッと掴み、真っ直ぐ見据えた。

「一度しか言わないから、よく聞け!嬪宮とは最初から形だけの婚姻関係を結んでいるから、一度も床を一緒にした事はない」
「へ?」
「そりゃあ、他の者の目もあるから、床入りと決まった日は顔を合わせはしたが、決して、してはおらぬぞ」
「何故です?」
「は?」

これでもか!と言わんばかりに力説したつもりが、あっさりと返された。
しかも、何故だと?

「好きでもない女子を抱くような趣味は無い」
「男性は、……そういう生き物なのでは?」
「はぁ?」

駄目だ。
知識が豊富さ過ぎるからなのか?
それとも、大提学の家ではそういう教育をしてるのであろうか?
ヘスは答えに詰まり、固まった。

「何か勘違いしてるようだが。愛する女性にしか身も心も許したりはせぬ」

ソウォンの顎を軽く持ち上げ、ゆっくりと顔を近づける。

「覚えておけ」

優しく唇を重ねた。

「こういう事をするのは、そなたが最初で最後だ」
「っ!」
「これまで、言葉が足りなかったな、すまぬ」

ヘスの長い腕はソウォンを優しく包み込む。
耳まで真っ赤に染まるソウォン。
目に入れても痛くないほど、可愛くて堪らない。

「そなたが好きだ。出会った時から、ずっと…」

何故か、恥ずかしさも緊張も不安も無い。
以前は何かに後ろめたさを感じていたのかもしれない。

「ソウォンは?」

抱きしめる腕を解き、顔を覗き込むと、不安そうに見つめ返して来た。