目の前に現れたのは黒装束姿のダヨンだった。
夜着のままのソウォンに頭から長衣を被せた。

「こちらです」

言われるままに後を追う。
廊下で繋がっている隣の殿閣に移動し、外に出た。

「向こうだ!」
「このまま真っすぐ進むと東宮殿に辿り着きます。すぐ後を追いますので、先に」
「分かったわ!気をつけて…」

ダヨンはソウォンが門をくぐったのを見届けて壁に一蹴し、その反動で体を捻りながら剣を振り下ろす。

「ここはお任せを」

仲間の合図でダヨンはその場を後にし、ソウォンの後を追う。
手灯が無いため、足元がおぼつかないソウォン。
そんなソウォンに追いついた、その時。
矢がソウォンに向けて放たれた。
ダヨンはソウォンを抱きかかえ、反転する。
ダヨンの右腕に鏃が音を立てて掠めた。

ダヨンは襲いかかる刺客に薬を撒き散らし、ソウォンを支えながら先を急いだ。

催涙薬の粉でその場に足が止まった刺客達。
狼狽えながら必死に追いかけようとするが、余りの痛さにもがき苦しむ。

「血が」
「大した事ありません」

ダヨンの右腕から血が滴る。
ダヨンは居所に逃げ込もうとしたが、丕顕閣(ビヒョンガク:世子の執務室)に明かりがついてるのが見え、飛び込んだ。

「何者だ!」
「私です」

ダヨンは口元を覆う布を下げ、顔を世子にあらわにする。

「嬪宮?!」
「シッ!追手が来るかもしれないので、まずは隠れる場所を…」

ダヨンは背後に隠れるソウォンをそっと世子に見せる。
長衣を下ろし、身元を明かすと。

「ソウォン!!」
「世子様、隠れる場所を」
「こっちだ」

執務室の奥にある書棚の一部が隠し部屋になっているようで、静かに開いた。
二人はそこに隠れ、身を潜める。

世子は動揺しながらも、外にいるヒョクに耳打ちし、東宮一帯に厳戒態勢を敷いた。