例え影の組織であろうとも、自分を護衛してくれる人の名前くらいは知っておきたい。
純粋に人に対しての礼儀だと思うから。
困った表情を浮かべたが、真っ直ぐ見つめるソウォンに根負けしたようで、男は軽く会釈しながら…。
「ジルと申します」
「ジル様ね?」
「呼び捨てでお願い致します」
「それは出来ないわ!命の恩人ですもの」
「……あれは任務でしたので」
「それでも、命の恩人に代わりは無いわ」
「……」
ソウォンの口振りに困り果てたジルは、小さなため息を漏らした。
「では、王様が不在の時だけにお願い致します」
さすがに主君の前で呼ぶのは危険よね。
身分を聞いてないから分からないけど、恐らく奴婢に違いないし。
身分の高い人がわざわざ影の組織に所属しない筈だもの。
いちいち確認するまでもない。
「分かりました」
「では、部屋の外に待機してますので、御用の際はお声掛け願います」
「分かったわ」
ジルは一礼し、静かに戸を閉めた。
ソウォンは茶を注ぎ、喉を潤す。
筆を右手に茶器を左手にして、書き出した暗号を食い入るように見ていると、一つの法則を発見した。
『日の出に有明月』の有明月とは陰暦で十五夜の次の日以降の事を指す。
日の出は恐らく位置を示してるだろうから、東の方角を意味するだろう。
『薄暮に九節飯』の薄暮は夕暮れだから西ね。
九節飯は九?それとも、器が八角形だから八?
とりあえず、九か八ということにして。
『髪に菊の簪』の菊は、何だろう?
花言葉?画数?
画数であれば、他の数字も画数で良さそうだけど、わざわざ違う言葉で表してるのだから、きっと画数ではないよね。
髪……髪……毛?……分からない。
思い当たる言葉を紙に書き出し、床に並べてみる。



