目が覚めると、部屋の入口付近に顔を洗う用の水桶と衣服、それと朝食が置かれている。
「そうよね。世子嬪が姿を消したら一大事だもの」
一人で納得し支度を済ませ、食事を頂く。
この殿閣から出ては危険。
世子様にも世子嬪様にも、勿論王様にも迷惑がかかってしまう。
ソウォンは物音を立てないように、注意を払った。
机の上に用意されている紙に八卦の文字を書き出してみる。
公主様が記した日記のような詩のような文に暗号が隠されているはず。
書き終えた文字を何度も見返した。
日の出に有明月
薄暮に九節飯(※クジョルパン)
髪に菊の簪
紅梅と天の川
白磁を愛でる
蜂の巣を探索
月の満ち欠け
足並み揃えし
無二の友
(※八角形の器に八種類の具を入れ、小麦粉で作った薄皮の餅で包んで食べる料理)
八卦を使って書かれた暗号。
それを解読して訳してみたが、普通に文字で書いても分からない。
何故、わざわざ八卦を使ってまで暗号にしたのだろう?
暗号にするからには、秘密にしたい事があるはず。
けれど、それを誰かに伝えるための言葉であるわけだから……。
何度読み返しても詩では無さそう。
何かの歌だろうか?
頭文字を書き出しても繋がらない。
『八卦』の八に当て嵌め、八文字目の言葉を繋げてみるが、答えでは無いようだ。
思い当たる事を手当たり次第に書き出して眺めていると、
「ソウォン様、茶と食事をお持ちしました」
「入って」
ゆっくりと扉が開くと、お膳を手にした昨夜の護衛が。
ソウォンの横にお膳を置くと、一礼して踵を返した。
「あのっ…」
ソウォンの呼び掛けに男が振り返る。
「お呼びでしょうか?」
「何てお呼びしたらいいですか?」
「呼ぶ必要はありません。御用件だけ伺います」
「私が呼びたいのです!」



