「ギョンはヨンギルを慕い、ヨンギルもまたギョンの事を大事にしていた事もあり、余の口添えもあって二人は婚約した」

王は懐かしむかのように瞼を閉じ、深呼吸する。

「まだギョンが幼かった事もあり、成人に達したらという約束で二人は愛を育んでいたのだが…」

言葉を詰まらせ、表情が歪む。

「先帝の側室が急死し、その半月後にギョンは発作で来世に旅立った」

側室の急死?
しかも、半月後に公主までもが。
ソウォンは、語られる過去の出来事に総毛立っていた。

「そなたが戸判の屋敷で見たものは、亡くなる直前にギョンがヨンギルに残した物だ」

あの暗号らしきものにそんな秘密があったとは。

「そなたは息子の世子と出会い、偶然にも余が究明したい闇の部分に入り込み、解けずにいた暗号の謎にも気付いた」
「……」
「恐らく、先帝の側室は病死ではなく殺害され、それを目撃したか、あるいは何かを知ってしまったか…。それが理由でギョンは死に至ったのであろう」

王はソウォンの目の前に腰を下ろして視線を合わせた。

「ギョンの尚宮(サングン:女官)と護衛が、ギョンの死後相次いで自害している。恐らく、ギョンの死と暗号に関係しているはずだ」

側室と公主だけでなく、尚宮と護衛も亡くなっているなんて。
王様が真相を明らかにしたいのも無理はない。

「猶予は五日。この者がそなたを手助けする」
「お会いするのは二度目です」

そう言って口元の布を下げた彼女は、まさかの嬪宮(ピングン:世子の正室)。
予想もしない人物の登場に気が動転してしまう。

「ダヨンは世子の護衛として潜り込ませた者で、見た目とは違い武術も長けている」
「ッ?!!」
「ダヨン、くれぐれも気付かれるでないぞ?」
「御意」

王は頼んだぞと言わんばかりにソウォンの肩を軽く叩き、その場を後にした。