そこには、柔和な表情の世子様が。
「ソウォン」
「……世子様」
何とも言えぬ空気に包まれる。
頬を伝う涙をそっと指先で拭う世子様の視線に、自分が好かれているのではと勘違いしてしまいそうで。
それほどまでに好意を寄せる人への視線に感じられた。
淡い期待を抱く事すら許されぬ御方なのに、視線の先にいると感じられるだけで心が勝手に反応を示す。
早まる鼓動が伝わりはしないかと気が気でなくて、息も出来ず固まっていると。
「何故、此処にいるのだ」
やはり世子様には正直に話さないと。
気持ちを落ち着かせ、脳内を整理して……。
「世子様」
「ん?」
「以前、戸曹判書様の御屋敷で見つけた木札の事を覚えてらっしゃいますか?」
「木札?……勿論、覚えている。木札がどうしたのだ?」
「恐れ多くも、あの木札に書かれていた暗号を解きまして……」
「誠か?」
「はい、世子様」
「で、何を意味しているのだ?」
「それは………」
優しい眼差しが一瞬で鋭い視線へと変わった。
ソウォンは意を決し、目一杯背伸びした。
そして、ヘスに耳打ちしたのだ。
ソウォンの言葉に絶句したヘス。
握りしめた拳がわなわなと震え出す。
「確証はあるのか?」
「……はい」
ソウォンの返答にヘスは深い溜息を吐いた。
「もしや………」
「ん?………何だ、申して見よ」
「切に無いこと祈りますが、もしかして………、王様はどこか御体が優れないのではありませんか?」
「ッ?!…………何故、それを」
「やはり、…………そうなのですね」
驚きを隠せないヘスに対し、ソウォンは嘆息した。



