「良いか、目を瞑るのはこれが最後だ。………次は許さぬ」
凄みのある声音に、無意識にごくりと生唾を飲み込む。
瞳をまっすぐ射竦められ、心の底から思慕の念に駆られた。
例え王の女人となったとしても。(入宮の儀は、王との婚姻を意味する為)
一介の女官として身の回りのお世話をするような立場になったとしても。
生まれて初めて抱いたこの感情は、簡単には搔き消す事など出来そうにない。
胸の奥底にしまい込んだはずの想いが迫りくる入宮の日を目の前にして、涙として溢れ出してしまった。
チョンアは悲しむかもしれない。
ずっと傍で支えてくれて来たから。
私が『友』でなく、『妻』として迎えて欲しいと伝えたなら……。
世子様は困るに決まっているのに。
分かってる、分かっているけど、やっぱり気持ちの整理なんて簡単には出来ない。
妓生の恰好をしていても、正真正銘私は両班の娘。
男の人に媚びる事なんて御法度だって分かってる。
慎ましやかに嫋やかでなくてはならないのに………。
「ソウォンっ……」
募る想いが溢れ出して、決して触れてはいけない御身に。
頬を伝う涙を隠すかのように、世子様の胸に顔を埋めた。
「すまぬ。……少し怖がらせてしまったな」
「っ……」
背中に添えられた手が優しく擦って下さると、世子様は何度目か分からぬ溜息を零した。
「此度は、何故このような無茶な真似をしたのだ」
「………」
「そなたの事だから、理由があるのであろう?」
「………」
「ソウォン、もう威圧したりせぬ。理由を申せ」
先ほどとは違いいつもの優しい声音に安堵し、重いトゥレモリ(盛髪)を支えほんの少し顔を持ち上げると。



