「ソニと申したな」
「はい、大監」
「そなたは何が得意なのだ?」
「得意なもの………ですか?」
ミンジェは目尻を下げ、シファの注いだ酒を口にする。
ソウォンはそんなミンジェ越しにシファに視線を送ると、小さく頷いた。
ミンジェは座興を好み、よく妓生に興を披露させるのだ。
そんな情報を事前に知らされたソウォンは、母から教わった月琴を披露しようとしたが、トルパンジの事もあり、演奏は控えるべきだと思った。
両班の女性は、幾つもの嗜みを幼い頃から習う。
それはソウォンも例外ではなく、刺繍、書画、楽器の演奏、舞など多様である。
しかも、ソウォンはそれだけでは満足できず、武術や馬術など男性が習う稽古もして来た。
そんなソウォンにシファは特に優れている書画を薦めた。
沢山の書や画に触れて育ったため、目が肥えていると思ったのだ。
「大したことはありませんが、書画をするのが好きです」
「書画とな」
「はい、大監」
「妓生にしては珍しいな」
大抵の妓生は、舞踊や楽器演奏を訓練する。
それは、酒席での盛り上げを担うからで、中には歌(ソリ)を得意とする者もいるくらいだ。
ミンジェはシファに目配せする。
それはソニ(ソウォン)の書画がみたいという事を意味していた。
「ソニ」
「はい、シファ辺首」
「準備を」
「……はい」
やはり打ち合わせ通りの流れになった事に、心の底からシファ辺首の凄さがうかがえる。
ソウォンは深々と一礼し、チマをそっとつまんで後退りし、書画の用意をする為、部屋を後にした。
急ぎ足で廊下を進みながら、ほんの少し安堵した、その時。
「あっ!」
「すまぬ、怪我は無いか」
曲がり角で出合い頭にすれ違った男性とぶつかってしまった。



