ソウォンの美貌は隠せないようだ。
シファ自らソウォンの化粧を施したのだが、さすが両班の娘。
化粧を施さなくとも紅一つで十分に映えるほど綺麗な肌で、髪を結え上げるとシファを始め妓生達がうっとりと見入ってしまうほどである。

ソウォンは平静を装って、片水(ピョンス:小麦粉で作った薄い皮で具材を包んだ四角い餃子)を小皿に取り分け、チョ・ミンジェの前に置くと、ミンジェはお気に召したようで目尻を下げた。

すると、向かい側に座る男が口を開いた。

「大監、次はどうするおつもりで?」
「うむ……。思ってた以上にしぶとくてな」

ミンジェは溜息まじりに酒を口にした。
ソウォンの向かい側にいるのは、取引で数回会った事のある穀物商のヨ・テドンである。

取引の際は男装し、変装用の付け髭をしている事もあり、ソウォンには気付いてないようだ。
ミンジェを中心に右にソウォン、左にシファがお酌するのを正面から見ているテドンは、すっかり鼻の下を伸ばし、恍惚の表情をしている。

シファが自分に気を引かせるようにとミンジェの耳元に囁き、空いた杯にゆっくりと酒を注ぐ。
酒席に慣れないソウォンを気遣い、シファは他の妓生にも目配せすると、酒が進むように他の妓生もお酌を始めた。

「例の物は」
「準備出来ております、大監」
「そうか」

不敵に微笑むミンジェ。
明らかに悪事を企てているとソウォンだけでなく、その場にいる妓生達も分かるほど。
けれど、酒席での会話は外部に漏らさないという規則がある為、妓生は口が堅い。
中には欲を欲して身を亡ぼす者もいるが、大抵の妓生は苦労している分、心優しい娘が多い。

ソウォンには『しぶとい』『例の物』という言葉が突き刺さり、恐怖で身が震えるのを必死に堪えていた。