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「座りなさい」
「………はい」

酉時(ユシ:午後五時から七時頃)の刻。
ソウォンは父親に呼ばれ、舎廊房を訪れていた。

いつになく真剣な表情の父親を前に、緊張の色を隠し切れない。

父親のジェムンは優雅な所作で茶を淹れる。
昔はこうして父とよく茶を嗜んでいた。

諸外国の珍しい茶が手に入ると、父はソウォンに振舞うのが好きだったのだ。
見たことも口にしたことも無い珍しい茶を前に、ソウォンの瞳が輝くのを見るのが好きだったのだ。

ジェムンは柚子茶(ユジャチャ)を注いだ茶器をソウォンの前に置くと、深い息を吐いた。

「その指に巻かれているのは、世子様からの贈り物を隠すためであろう?」
「ッ?!…………ご存じだったのですか?」

ジャムンは顔色一つ変えず、茶を口にする。

「世子様のことをどう思っているのだ」
「っ………、どうと、聞かれましても………」

突然の質問にどう答えていいのか分からない。
幼い頃から秘めてきた想いは、そう簡単には言葉に出来ない。
それに、どうして贈り物のことを知っているのか、不思議でならなかった。

何故唐突にお尋ねになるのだろう?と、そんな思いが脳内を埋め尽くしていると。

「今の素直な気持ちを聞かせて欲しいだけだ」
「と、申しますと?」

ソウォンは父親の顔色を窺いながら質問を質問で返し、返す言葉を探していた。

「少し前に世子様とお会いし、そなたのことを話した」
「えっ……」
「単刀直入に申すぞ」
「………はい」
「世子様直々に、そなたの入宮をお望みだ」
「ッ?!」

父親からの言葉は衝撃的で、直ぐには理解出来なかった。

けれど、父親の説明を聞くうちに、断ることが出来ないことは容易に想像がつく。
それこそ、不治の病か巫女にでもならない以外、断る理由がないということも。

「近いうちに王宮から使いの者が来るゆえ、心の準備をしておきなさい」

ソウォンの心は苦しいほどに締め付けられた。