小間使いの男は一旦席を外した。
恐らく茶膳の用意だろう。

ソウォンは珍しい八角の形をした部屋に興味を示していると、ユルは咄嗟に違和感を覚え、ソウォンの前に立ちはだかった。

「ユル、どうかしたの?」
「この部屋、何かがおかしいです」
「おかしいって?」
「それは………」

はっきりとした確信がある訳ではない。
何となく、肌がそう感じただけなのだが。

ユルは人一倍危機管理能力に長けている。
それゆえ、その違和感が何から来るものなのか、神経を研ぎ澄ませて探っていると。

「誰か来ます」

気配を感じたユルは、ソウォンと間を取り、入口がぎりぎり見える角度で壁を見据えた。

「お時間を取らせてしまい申し訳ありません」

小間使いの男とこの穀物商の主である男(ヨ・テドン)が姿を現した。
主が席に着くように手を差し伸べる。
ソウォンとユルは警戒しながら腰を下ろした。

ソウォンが茶器に手を伸ばすと。

「朝鮮一と名高い月花商団様に折り入ってお願いがございまして……」
「………お願いとは、………何でしょうか?」

ソウォンはユルと視線を合わせ、打ち合わせ通りに返答する。

「実は先の河川氾濫にて、手前共が保管していた倉庫の一部が被害に遭いまして、大量の薬剤(ヤクチェ:薬の材料)を失ってしまいました」
「それは災難でしたね。私共で手配出来るものでしたら、用意致します」
「そう言って頂けると、本当に助かります」

テドンは満足げな表情で薬剤名が記された紙を差し出した。

ソウォンは在庫を確認した上で連絡すると伝え、ユルと共にその場を後にした。