世子様に見初められて~十年越しの恋慕



すると、ソウォンは背に違和感を覚えたのである。
漢陽でも有数の名家の生まれのソウォンにとって、輿には何百回と乗っている。
ソウォンの家でも複数の輿を所有しており、見慣れたはずの輿なのだが……。

ソウォンは体を反転させ、慎重に手を翳す。
すると、背中で感じた違和感が確信へと変わった。

「世子様っ」

ソウォンの声を聞きつけ、ヘスが駆け寄って来た。

「どうした、何か分かったのか?」
「ここから、冷たい風を感じます」
「ん?………風?」
「はい、………ここです」

輿の扉の隙間から、僅かであるが中から風の流れが確認出来た。
二人は顔を見合わせ小さく頷くと、輿の扉を慎重に持ち上げた。

「これは……」
「どこに繋がっているのでしょうか?」

輿の内部が地下通路の入口になっているようだ。
ソウォンはすぐさま中に入ろうとすると、ヘスは倉庫の入口へと駆けて行った。

「少し待ってろ」

まもなくして戻って来たヘスは、手蝋で前方を照らしながらソウォンを先導する形で輿の中へと。

「倉庫の外を確認して来たのですか?」
「あぁ。部下がいるか確認して来た」

イノを始め、数人の部下をこの屋敷に忍び込ませているという。
妻の実家だというのに、気にならないのであろうか。
ソウォンはそんな事を考えながら、ヘスの背中をじっと見つめていた。

地下通路は二十段ほどの階段があり、それを降りたところに小さな小部屋が設けられていた。
そこには大きな木箱が幾つもあり、そのどれもに銀隗がびっしりと敷き詰められていた。

「密輸で得た銀隗であろうな」
「………恐らく」

ヘスが銀隗の数量を数えている間、ソウォンは何気に壁に掛けられた花瓶が目に付いた。
両班の屋敷の仕掛け部屋ならともかくとして、倉庫内の、しかも地下通路を降りた先にある隠し部屋に花を飾るとも思えなかったのだ。
ソウォンが花瓶にそっと触れると、僅かに響く音がした。
慎重に壁から花瓶を手に取り傾けると、中から小さな鍵が滑り出て来た。