一触即発ともとれる雰囲気。
ソウォンは意を決して水を汲み直す。

「私が奴婢に見えないだなんて、嬉しいわね。女性なら、誰だって綺麗に見られたいものだもの」

ソウォンは汲み上げた水で桶に付いた泥を流し、再び汲み上げる。
そんなソウォンの様子を見て、ユルもまた冷静さを取り戻した。
イノの胸元から手を離し、ソウォンが汲み上げた水桶を再び頭上に乗せた。

「俺の奥さんを偉く気に入ったみたいだが、俺の目の黒いうちは、さっきみたいな真似は二度とするな。………行くぞ」

ユルは片手で水桶を支え、もう片方の手でソウォンの腕を掴み歩き出した。

「やはりあの男は要注意です。出来るだけ、お一人にならないように」
「…………分かったわ」
「例の作戦は、見送った方が良さそうです」
「え、でも………、今夜は絶好の機会じゃない」
「ですが、危険すぎます。さっきの奴の眼をご覧になりましたか?」
「……………でも」
「いいですか?今夜はやめにしましょう。奴がいない日にした方がいいです」
「……………分かったわ」

ソウォンは渋々納得した様子。
ユルを安心させようと愛らしい笑顔を見せる。

「そんな顔しても無駄ですよ、お嬢様」
「だから!………お嬢様なんかじゃないわ!」
「あぁ、はいはい、そうですね」
「もうっ!」

まるで本当に仲睦まじい夫婦のようにじゃれ合う二人を、少し離れた所から眺めている人物がいた。

*********

申時(シンシ:午後三時から午後五時)から始まった宴会は、妓女の舞で始まり、盛大なものとなった。
王様の許可を得た世子嬪が父親の祝いに駆け付け、その場はより華やかなものとなり、ポラを始め、使用人たちが嬉しそうにする。
その頃、宴席で酒を飲んだ戸曹判書の息子ピルホは、部屋で休むと言いながら妓女を連れ込んでいた。
酉時(ユシ:午後五時から午後七時)を過ぎた頃、世子嬪が王宮に戻るというので、ピルホは一旦部屋から庭に出た。
すると、偶々その前を通りかかったのが………。