井戸から水を汲み上げているソウォンは背後に気配を感じ、さりげなく振り返る。
すると、僅かに男の後ろ姿を捉えた。
「ポラさん、若旦那様に付いている背の高い人って、どういう人なんですか?」
「ん?………あぁ、イノかい?」
「イノさんって言うんですね」
「ん、あんたと同じ新参者だよ。半月ほど前に、旦那様が連れて来たんだよ」
「旦那様が?」
「あぁ。何でも腕っぷしがいいらしく、若様の護衛役にってね」
「………護衛役」
「何だい?あんなに美男の旦那がいるのに、気になるのかい?」
「あ、いや、そうじゃなくて。ちょっと眼つきが気になって」
「あぁ、それは仕方ないよ」
「え?」
「街でごろついている所を拾って来たみたいだからね」
「………へぇ」
ソウォンは汲んだ水桶を頭に乗せ立ち上がると。
「っ?!」
ずっしり重いはずの頭が一瞬で軽くなった。
「あらあら、あたしは邪魔者みたいだね」
「え?」
「先に台所に行ってるよ~」
ポラは掌をひらひらと振りながら、台所へと向かって行った。
「ユルっ!」
「ユンギです、お嬢様」
「ユンギだろうが、ユルだろうが、もうどっちでもいいわ!私に手を貸しては駄目じゃない」
「ですが……。お嬢様にこのようなものを持たせる訳には……」
「それに、ここではお嬢様ではないの!ソニ!あなたと同じ使用人なんだから、放っておいてちょうだい」
「そう言われましても……」
ユルの手から水桶を奪い取り、ソウォンは頬を膨らませながらポラの後を追おうとすると。
「あ、お嬢様。………イノという男にはお気をつけ下さい」
「へ?」
「もしかすると、お嬢様の事にお気付きかもしれません」
「どういうこと?」
「昨夜、使用人たちに俺らの事を聞いて回っていたようです」
「ッ?!」
「ですので、十分お気をつけ下さい」
「……………分かったわ。ユルも十分気を付けて」
「ユンギです、お嬢様」
「もうっ!」
ソウォンは眉間にしわを寄せながら、台所へと向かった。



