「痛い」
「我慢してください」
「へたくそ」
「文句が多いですね」
「……ありがとう」
「………」
「そこで黙るなよっ」
「あ、いや、一瞬聞き間違いかと思って……」
「……もう知らん」
「嘘ですよ、冗談です」
なんて話しているうちに絆創膏を貼り終わった。
救急箱をパタンと閉じると、先輩が椅子から立ち上がった。
見間違いかもしれないけど、その頬が少しだけ赤く染まっていたように思う。
「こ、これくらいの傷、別に何ともなかったけど……その、ありがとな」
「どういたしまして」
「……お前、名前なんて言うの」
「橘 千草(たちばな ちぐさ)ですけど」
「ふーん」
人に聞いておいてふーんとは何だ。
「人に名乗らせておいてそっちは名乗らないんですか」
「……獅坂」
「下の名前は?」
「……百」
「もも?」
「し、下の名前で呼ぶなっ」
「あ、はい」
「じゃあ、俺もう行くから」
「はい」
茶髪くんは終始、眉間に皺を寄せたまま保健室を出て行った。
それから後に、私はその時会った茶髪くんこそが噂の獅坂 百先輩だったんだという事に気がついたのだった。

