「先輩の名前って可愛いですよね」




前々から思っていたことを率直にぶつけると、途端に先輩の表情から不機嫌オーラが滲み出た。


どうやらこの話題はお気に召さなかったらしい。


それでも私はイケるとこまでこの話題を続けてみたくなった。




「確か、百って名前でしたよね」


「……ぶな」


「え?」


「下の名前で呼ぶな」




かつて見たことがないほどに先輩の眉間に深すぎる皺が刻まれている。


確か初めて会った時も、そんなことを言われたような気がする。




「下の名前で呼ばれるの嫌なんですか?
そういえば、先輩のこと獅坂くんとか獅坂って呼ぶ人ばっかりですよね」


「俺がみんなにそう呼べって言ったからな」


「何で?」


「何でもなにも、そんな女みたいな名前……ダサいだろ」


「………」




なるほど、男の子故の悩みってやつだろうか。