「場所、変えよう」


「え?」


「行くぞ」


「あ、待って……!」




先を行く先輩に遅れて慌てて駆け出す。


何でわざわざ場所を変える必要が?とも思ったけれど今はそれどころではない。




「ちょっ、先輩!歩くの速いです!」




店内を出てしばらくすると、先輩がようやく歩調を緩めてくれた。


一体急にどうしたんだ……。




「先輩?」


「お前さ、初めて会った時のこと覚えてる?」


「ええっと……保健室でしたよね、確か」


「やっぱ覚えてたんだ」


「先輩、有名人だったので」




まあ、初めて会った時にはまだ先輩のこと知らなかったんだけど。




「私の方こそ驚きました。先輩も覚えてたんですね」


「……すっげえムカついたし」


「何ですかそれ」


「強引でめちゃくちゃだったくせに俺の体、気遣ってくれてて……ちょっとうれし……」


「あの、先輩、聴こえないです」




言葉尻が小さすぎて聴こえなかったので正直にそう言うと、先輩に「何でもない!」と不機嫌に顔を逸らされてしまった。


またそれか、と先輩のワンパターンには呆れる他ない。