それから数日が経ち、一日おきでの診察
、吸入も順調に終えていた。
診察、吸入の時にはお父さんと幸治さんはいなくなり、進藤先生と石川先生の二人だけになった。
お父さんも幸治さんもオペが入ることが多くなり、毎日忙しくしている。
復帰して少しの間は、幸治さんやお父さんの車で帰っていたけど、段々と二人の仕事が定時に切り上げられなくなってきて、私はバスで帰るか、もしくは調子のいい時には、バスを待たずに歩いて帰るようになった。
そんなある日の帰り際、病室から女の子が顔を出して廊下の様子を伺っていた。
ん?何、あの子。確か、早川先生の担当…。
帰らないと石川先生に見つかったら、何を言われるか分からないけど、このままにはしておけないし。
早川先生に携帯で連絡しようか…。
けど、あの子に気づかれたら、あの子が何をしたいの分からないし。
とあれこれ考えている隙に、女の子は病室を抜け出し、階段のある方へとスタスタ歩き始めた。
私は足音を立てないように静かに、女の子の数メートル後ろを歩く。
ガチャ
バタン。
階段に通じる扉が開く。
そして扉が閉まって少ししてから、静かに開け、静かに閉める。
タッタッタッタッ
リズムよく階段を下がる音が聞こえる。
どこに行くんだ?
女の子は一階分、下の階を階段で下っている。
階段を下りて、一階まで行くと、女の子が向かった先は…
「アニマルハートクリニック」
そこは患者さんの心のケアをするために犬や猫を集めた部屋であった。
女の子はいつもここに来ているのか、部屋に足を踏み入れて行く。
いやいや、ちょっと待ってよ…。
あの子入って大丈夫なのかな…。
そう思うと同時に私は彼女の元に走り出す。
「ちょっと!」
女の子は振り返ると、私が小児科の医師だと気付いたのか、顔を強張らせる。
「ここに来るの、何回目?」
『何回も…。』
女の子は今にも泣きそうな顔でうつむく。
「そう。なんで入院してるのかな?」
『足の骨折…。
もうほとんど治ってるから。ただつまらなくて、いつもここに来てて…。』
骨折なら大丈夫か…。
「うん、分かった…。でもさ、もう御飯の時間だよ。ここに来たかったら、主治医の先生に聞いて、昼間に来ようよ。ねっ?」
女の子は今まで隠していたからなのか、私がここに来ることを怒っていないと分かると、明るい顔になった。
『先生に…聞いてみる。』
女の子はアニマルハートクリニックから出て、私のそばに来る。
それから来た道を二人で戻り、病室に連れて行った。
はぁ。これで大丈夫。
少し足早になったせいか、普段より疲れがどっときた。
もう帰ろう…。



