〜かなの寝た後のリビングでは〜
「かなちゃん、帰って来た時から結構思い悩んでたみたいだけど、そのことだったのね。」
かなの寝た後のリビングには、幸治と両親が残っていた。
かなが定時での仕事上がりの件に、帰りの車中でも悩んでいたという幸治の話を聞き、母親が納得する。
『そうやってお母さんにも相談してたな。
まぁ新人社員が上司よりも先に帰るというのは、普通の人間なら心苦しいし、もっと働きたいって思うよな。
でも…、それはさせれないな、今のかなちゃんには。』
「ああ。今日の吸入も相変わらずな結果だったからな。」
『お風呂でのぼせた後の聴診では、だいぶ心音が落ち着いてはきてたけどな。
思ってたよりも早くかなちゃんには馴染んでるようだ。まあ、このまま順調に行けば、かなちゃんの心臓はものすごい長生きするとは思うけどな…。』
父親の言葉に、明るい表情になる幸治。
『まぁ、何がこの先あるか分からないから、本人には言えないけど。
医者の生活リズムは正直、長生きできるようなものではないからな。本当はもっと負担のないところでの仕事がかなちゃんにはいいんだがな。』
「っていうのは、大きな病院なんかじゃなくて、当直のないような町医者とか?」
すかさず母親が尋ねる。
『ああ。今はまだ私たちのいる大学病院がいいけどな。ゆくゆくはそういうことも考えていった方がいいだろうな。
かなちゃんだって結婚したんだ。親になりたいと思うかも知れないからな。
いつか子供を授かって、それから出産育児ってなったら、大学病院で続けるよりもいいかもな。』
「そうだな…。」
幸治が納得した表情を見せる。
『今はかなちゃんが悩みの多い時だ。母さん、かなちゃんの相談には乗ってあげてね。今日、私は黙っていたが、やはり職場では上の立場になってしまう私たちよりも、お母さんの方がかなちゃんの悩みを引き出しやすい、かなちゃんも素直に話せるところがあるだろうから。』
「えぇ、もちろんですわ。かなちゃんの役に立てるならね。」



