未知の世界5


まるで先ほどのことは、なかったかのようにみんな違う話題で食事をしている。







仕事復帰初日から、帰宅後早々にこんなことがあったのだから、何か思われてるんじゃないか不安に思っていたけど、誰も私のことには触れなかった。






食事が終わり、お母さんが片付けをしている間、テーブルの椅子に腰掛けお茶をすする。






はぁ、明日も定時に帰宅か…。






ちらりとソファにいるお父さんを見る。








せめてお父さんが帰宅してから帰ってきたいな。







なんて考えていると、








「どうしたの?かなちゃん?」








『え?』








お母さんが声をかけてきた。







「何だか、帰ってきてから考え事してるって顔よ。」







慌てて手で顔を触る。







「何か困ったことでもあったの?仕事の話じゃ言えないこともあるかもしれないけど、喋れることなら話してちょうだいね。」







『は、はい…。







仕事のことと言えば仕事のことなんだけど。







これを条件に仕事に復帰したんですけどね…。』








「ん?」






タオルで手を拭きながら、目の前の椅子に座るお母さん。







『仕事が終わったら、残らず定時で帰るっていう条件…。






みんな仕事してるのに、私だけ…。』








「そういうことねぇ。








まぁ、今は研修の立場だから、上司よりも先に帰るって気が引けるよね。」








『はい…。』








「でも、当直もまだつかないんでしょ?まだ仕事に体が慣れてきたら、様子見てってことでしょ?」







『はい。当直はさすがに私もまだ不安です。』







「そうよね。






でもさ、当直も残業も同じことよ。








今は通常の時間帯での仕事に慣れることが第一優先じゃないのかな?







もし残業して体調を崩しちゃったら、またしばらくは仕事に戻らないのよ。」









『そうなんですよね。でも…。』









「みんなさ、早くかなちゃんに医者として一緒に働きたいから、無理させず、順調に回復するように考えてのことなんじゃないかな?








今はみんなを頼ったらいいんじゃない?そばにいる幸治はもちろん、指導医の石川先生にも。」






他の先生方、そう思ってくれてるのかな。そうだとしたら嬉しいな。







そうだとしたら、無理しないで確実に回復していきたいな。






お母さん。ありがとう、何だか気持ちが軽くなった気がする。








『…はい。お母さん、ありがとう。』









お母さんに話して良かった…。