ガラッ






「かな、いいか?」







あれから一時間が経った頃、幸治さんが部屋に入ってきた。







「…もう落ち着いたか?」







『……ぅん。』








「かな…。ずっとそのことで悩んでたんだろ?」






やっぱり知ってたんだね。






「言えなくて、辛かったろ。」








その言葉に再び涙がこぼれおちる。







頷いて返事をする。







「心臓移植したから、寿命が縮まったんじゃなくて、移植したから延びたんだ。







それは理解できてるか?」







『……はい。』








「あと何年とか考えるなよ…。






俺を一人にするなよ。






それに、夢だった医者になるんだろ?」







幸治さんの顔を見ると、私以上に涙を流している。






『……ぅん。』








「なら、過去にないくらい一番長く生きてやれよ。」









『ぅん。』








「今現在、移植後に20年以上生きてる人が何人もいるんだ。それ以上生きれるに違いない。それに、今長く生きるために闘ってる人たちはたくさんいるんだ。







諦めるな…。俺がずっとそばにいるから。」







涙でクシャクシャになった幸治さんの顔を、初めて見た。







私もきっと同じくらいクシャクシャなんだろうけど、自分のことが気にならないくらい、幸治さんの方がすごい。







そして私は決めた…。







二度と幸治さんにこんな悲しい顔を見せないということを。