天井を見つめてどのくらい経ったのかな…。
一時間?いやそれ以上かな。
検診中はあれだけ怠くて眠かったのに、いざ寝ようとすると眠れない。
なんて考えてると扉が開いた。
薄暗い寝室に幸治さんが入って来たのかな。
目をやると、幸治さんがそっとベッドに近づく。
「え?起こした?」
幸治さんが目を見開く。
『うん…眠れなくて。』
「ずっと?」
そういいながら掛け布団をめくり、ベッドに入ってくる。
『…はい。』
私の隣で横になりながら、額に手を当ててくる。
「…熱はなさそう。気持ち悪いとか怠いとかは?」
心配そうな顔の幸治さん。まだ医者の顔ではなく、佐藤幸治の顔。
『…今はないです。』
その答え方に一瞬顔を曇らせて、すぐさま医者の顔になる。
「今は?」
あ…。
「いつだるかったの?」
『朝から、その…検査中は…。』
ハァ
と、ため息をする幸治さん。
答え方、考えて言わなきゃいけなかった…。
「かな、今のかなの体は今までとは違うんだぞ。体調が悪くて検査の数値が低くなるとか、軽く発作が出るとか、そのレベルではないんだぞ。」
気づくと私の隣で起き上がり座り、私を見下ろす幸治さん。
目を幸治さんの顔に向けられず、伏せたまま。
「検診中じゃなくても言わなきゃ分からないだろ?
移植後の心臓に異変を感じてからじゃ遅いんだ。」
『……。』
これも進藤先生や石川先生にも、お父さんにも伝わっちゃうのかな…。
自分の全てを他人に熟知されて、自分の意思は聞いてもらえず、自分の知らないところで話が決まっていく…。
心臓も自分の体なのか分からない。
また自分のことなのに、自分のこととして感じられなくなってきていた。
幸治さんから叱られているのも、もはや一体誰なんだろう…。
私は今…どこにいるのかな…。
気づくと幸治さんの説教は終わり、背中を向けて幸治さんは寝ている。
曖昧な返事をしていた記憶しかない。
私の中のモヤモヤは大きくなっていた。たまにそのモヤモヤを第三者目線で見ていることがある。その間は感情がなくて全く自分のこととして受け入られないから、何を言われてるのかほとんど覚えがない。
そして寝室に横になってから、どのくらい経ったのか、なかなか寝られずにいた。



