未知の世界5


天井を見つめてどのくらい経ったのかな…。



一時間?いやそれ以上かな。






検診中はあれだけ怠くて眠かったのに、いざ寝ようとすると眠れない。





なんて考えてると扉が開いた。






薄暗い寝室に幸治さんが入って来たのかな。





目をやると、幸治さんがそっとベッドに近づく。






「え?起こした?」






幸治さんが目を見開く。






『うん…眠れなくて。』





「ずっと?」





そういいながら掛け布団をめくり、ベッドに入ってくる。





『…はい。』






私の隣で横になりながら、額に手を当ててくる。







「…熱はなさそう。気持ち悪いとか怠いとかは?」






心配そうな顔の幸治さん。まだ医者の顔ではなく、佐藤幸治の顔。






『…今はないです。』






その答え方に一瞬顔を曇らせて、すぐさま医者の顔になる。





「今は?」






あ…。






「いつだるかったの?」






『朝から、その…検査中は…。』






ハァ






と、ため息をする幸治さん。
答え方、考えて言わなきゃいけなかった…。






「かな、今のかなの体は今までとは違うんだぞ。体調が悪くて検査の数値が低くなるとか、軽く発作が出るとか、そのレベルではないんだぞ。」






気づくと私の隣で起き上がり座り、私を見下ろす幸治さん。





目を幸治さんの顔に向けられず、伏せたまま。





「検診中じゃなくても言わなきゃ分からないだろ?
移植後の心臓に異変を感じてからじゃ遅いんだ。」





『……。』







これも進藤先生や石川先生にも、お父さんにも伝わっちゃうのかな…。







自分の全てを他人に熟知されて、自分の意思は聞いてもらえず、自分の知らないところで話が決まっていく…。





心臓も自分の体なのか分からない。





また自分のことなのに、自分のこととして感じられなくなってきていた。
幸治さんから叱られているのも、もはや一体誰なんだろう…。
私は今…どこにいるのかな…。






気づくと幸治さんの説教は終わり、背中を向けて幸治さんは寝ている。





曖昧な返事をしていた記憶しかない。






私の中のモヤモヤは大きくなっていた。たまにそのモヤモヤを第三者目線で見ていることがある。その間は感情がなくて全く自分のこととして受け入られないから、何を言われてるのかほとんど覚えがない。





そして寝室に横になってから、どのくらい経ったのか、なかなか寝られずにいた。