肘掛け椅子に座る進藤先生を前に、丸椅子に腰をかける。
『今日は疲れたでしょ。』
「はい。くたくたです。」
『もっと早くいろんな体や心の変化を教えてくれてたら、なんとかできたんだけどな……。』
残念そうに話す進藤先生。
石川先生にちらっと目をやると、またも同じように怖い顔をしている。
どうせ言っても怒られるのに、言えないよ……。
それに、最近の心境のことは、簡単に人に話せることではなかった。
一番聞いて欲しい幸治さんにすら話せなかったんだから…。
『治療していく方向が一緒じゃないと、治らないよ。』
何気なく言った言葉だけど、私には突き放されたように聞こえる。
「……どうせ完治はしませんよ。」
ついムキになって、言ってしまった……。
言ってしまったものの、進藤先生の顔を見ることはできない。
俯いたまま……。
『…かなちゃん。僕の顔を見て。』
言われるけど俯いたまま。
『かなちゃん……。』
どれだけ間が空いたか分からないけど、進藤先生に見つめられていることは分かった。
『治るか治らないかは、僕次第ではない。君が治そうと努力できるかどうかだよ。』
……今まで治そうと努力してきても、この有様……。治るはずはない。絶対に。
『……まぁ、今後はご飯をしっかり食べて。よく眠って、適度に運動して。
仕事では無理しないことだね。』
……そんなこと、無理に決まっている。
だけど、私は。
「はい……。」
とその場しのぎで返事をした。
帰り際に、ちらっと進藤先生の顔を見たけど、普段と違って眉間に皺をよせたままだった。
やっぱり怒ってる……。
診察室を出た私は、会計を済ませて、足早に帰っていった。



