未知の世界5


肘掛け椅子に座る進藤先生を前に、丸椅子に腰をかける。







『今日は疲れたでしょ。』







「はい。くたくたです。」








『もっと早くいろんな体や心の変化を教えてくれてたら、なんとかできたんだけどな……。』






残念そうに話す進藤先生。






石川先生にちらっと目をやると、またも同じように怖い顔をしている。







どうせ言っても怒られるのに、言えないよ……。







それに、最近の心境のことは、簡単に人に話せることではなかった。






一番聞いて欲しい幸治さんにすら話せなかったんだから…。







『治療していく方向が一緒じゃないと、治らないよ。』







何気なく言った言葉だけど、私には突き放されたように聞こえる。






「……どうせ完治はしませんよ。」
















ついムキになって、言ってしまった……。








言ってしまったものの、進藤先生の顔を見ることはできない。







俯いたまま……。







『…かなちゃん。僕の顔を見て。』







言われるけど俯いたまま。







『かなちゃん……。』









どれだけ間が空いたか分からないけど、進藤先生に見つめられていることは分かった。






『治るか治らないかは、僕次第ではない。君が治そうと努力できるかどうかだよ。』






……今まで治そうと努力してきても、この有様……。治るはずはない。絶対に。







『……まぁ、今後はご飯をしっかり食べて。よく眠って、適度に運動して。







仕事では無理しないことだね。』






……そんなこと、無理に決まっている。







だけど、私は。







「はい……。」







とその場しのぎで返事をした。






帰り際に、ちらっと進藤先生の顔を見たけど、普段と違って眉間に皺をよせたままだった。





やっぱり怒ってる……。






診察室を出た私は、会計を済ませて、足早に帰っていった。