未知の世界5


マンションに着くとお昼前だったので、お母さんが台所で御飯の準備を始めている。





「お母さん、私も」





『ダメだ!』





私の言葉に割り入ってきたのは幸治さん。







『ダメに決まってるだろ?安静にって石川先生に言われただろ?』






「……。」







でも、お母さんにやってもらうなんて、そんな…結婚した今、ちゃんと私がやらないといけないような…。






「そうよ、かなちゃん。退院してきたばかりなんだし。動いたらダメよ。」







「はい…。」






お母さんに説得されてソファに座る。






『お父さんとここでテレビでも見よう。』






そうお父さんに言われて、ソファに座るけど、お母さん一人に任せきりなのが、とても気になってテレビどころではない。





しばらくして食卓にはたくさんの食事が並んだ。






皆んなでの食事は本当に楽しかった。





皆んなお母さんの食事が食べきれず、おかずが少しずつ残ってしまった。






「あらあら、作りすぎちゃったわね。」






そう言うお母さんに、





「大丈夫です。夜御飯にいただきます。」





そう、私はいつもの軽い気持ちでお母さんに言った。






すると…。






『かな!馬鹿言うな!』





あまりの幸治さんの言葉に、ビクッと驚いた。





え?





『…もしかして石川先生の話、ちゃんと聞いてなかったのか?』







「え?」





『食事の取り方とか、生活の仕方とか…。』






「聞いたけど…。」






え?何?何がいけなかったの?






『何も聞いてないのと一緒だろう。』






呆れたように幸治さんがいう。






『かなちゃん、これはとても大切なことだから、よく頭に入れるんだよ。』






今度はお父さんが私の方を向いて話す。





『作った料理は2時間以内で食べなくてはダメだよ。
それから調味料は、使い切りできるタイプのものを。
缶詰やレトルト食品は、必ず開ける前に穴が空いてないか確認して、洗ってから開ける。
果物も皮のあるもの。もちろん洗ってから食べる。
飲料水などのペットボトルを開けたら一日経ったら飲まない。
沸騰したお湯でインスタントコーヒーは飲めるけど、飲み残しは飲んではダメだよ。
もちろん刺身などの生物は避けてね。





もっと細かいことは病院からもらったパンフレットにあると思うから、よく頭に入れるんだよ。』







お父さんに一つ一つ丁寧に言われたけど…







私は何も返事ができなかった。






うそ…。






何それ…。






そんな制限、聞いてないよ。





一生、こんな生活なの…?






そう思うと、辛くて目尻に涙が浮かんだ。






そんなことはお構いなしとでも言いたいのか、目の前にカップに入れられた水と大量の薬。






幸治さんが、何の薬か説明していく。





入院中も飲んでたものもあるけど、それよりも増えてる。






何が何だか、管理できるかな。





私は言われた通り全てを飲み込む。





溢れそうな涙と一緒に。