トントン
「おはよう。入るぞ。」
昨夜は幸治さんに風邪が移らないように、別々の部屋で就寝した。
まだ寝起きの私は声がすぐに出ずにいた。
そんな私の額に少しひんやりした幸治さんの大きな手が優しく触る。
それと同時に目を閉じる。
今この時、時間が止まってくれたら…と毎度のように思う。
「…寝起きにしては熱いな…。まだ下がってないな。」
夜中に何度も氷枕を変えてくれた幸治さん。
今日も仕事だっていうのに、私のことで休めないなんて、本当に申し訳ない。
「今日は一緒に行くぞ。
終わるのは昼前だと思うけど、その頃におふくろに迎えにきてもらうから。」
お母さんまで…。また周りに迷惑かけてしまうことに自分の体の弱さにどうしようもない腹正しさを感じた。
冴えない頭で体を起こし、ゆっくりベッドを降りる。
幸治さんは既にスーツに着替えて、リビングに向かった。
倒れないようにとフラフラする体で着替えを済ませて、リビングに向かう。
廊下を歩くだけで、体力が奪われる。
壁に手をつきながらゆっくりと進む。
ガチャ
そんな状態でリビングに入ると、ようやく来たかの言わんばかりの顔で幸治さんがこちらを見た瞬間、いつも体調を崩した時よりもひどくなった私の様子に、目を見開き驚いた表情で近寄ってくる。
「おい、大丈夫か?
とりあえずソファに座って。」
そう言われて支えられた体をソファに下ろす。
用意してもらっていた食事に軽く口に入れる。
それだけでも今の私には辛い。
隣で朝食を口に入れる幸治さんが、携帯電話でどこかにかけている。
「……あ、俺だけど。
朝早くにごめん。」
かけた相手はお父さんとお母さんのところ。今電話に出ているのはお母さんだろう。私の症状と病院に直接来て、付き添いをして欲しいと連絡している。
フラフラしながらも顔を洗って歯を磨いて、家を出た。



