午前中、幸い咳は出ることはなく、心臓も何も異常なく済んでいた。
医局の机に広げた薬。
薬に混ぜるゼリー…。
一応置いてある弁当箱。
朝起きて作ってはきたものの、今日は食べる気がしない。
チラッと周りを見ると、ほとんどの先生が食事に出ていた。
幸治さんも石川先生も。早川先生も。
残っているのはお弁当持ちの医局長とたける。
「ん?」
私の視線に気づいたたける。
『あのさ…、お腹空いてる?』
「弁当食べたからまぁまぁお腹は膨れてるけど、食べれないことはない。
最近、あいつの弁当、手抜きでさ。」
そう、作っているのはこの病院で働き、かつて同じ大学の看護部で勉強していたまい。
まいとたけるは結婚前提で同棲している。
愛妻弁当もここ数ヶ月続いていたけど、毎日忙しくしているまいには、朝の弁当作りは大変だと思う。
私は幸治さんが気を遣ってくれているからか、お弁当は自分のものだけで、幸治さんは食堂で食べている。
私の席に歩み寄るたけるは、私が何が言いたいのか分かったのだろう。
「それは食べないといけないんじゃないかな?
今日は当直もあるし。」
やっぱりそうなるか。
『でも食べられないから、捨てようかと思って。』
食べれないと断言してみると、
「それなら、半分もらってやるよ。
ちゃんと半分は食べろよ。」
『………はい。』
「なんだ、その間はっ。」
早くみんなが帰ってこない前にと、たけるの差し出したお弁当箱に、私のお弁当からたけるの食べれそうな物を分ける。
たけるの食べれそうな物と言ったけど、たけるに好き嫌いがある訳ではなく、私のお弁当の中身は心臓に合わせたものだから、基本的には薄味。
誰が食べてもそう感じてしまう。
でも濃いものだって少しは入ってる。
だからそれをたけるに食べてもらった。
周りを見るけど、医局長はテレビを見ながら食べている。
大丈夫。気づいてないみたい。
そそくさと残りのお弁当を食べた。