火菜は、勇の部屋に行こうとして、廊下の向こうに潜む人の気配を感じた。

(私達、みはられている!!)

 火菜はそう感じたが、引き戻る事はせずに、自然に勇の部屋に入っていった。

 「ひな!ひな!」

 一人でテレビを見ていた勇は、とてもうれしそうにした。

 しかし、火菜の気持ちは焦っていたので、

 「勇、大事な話しがあるから聞いてくれる?」

と、真剣なまなざしで勇に伝えた。

「うん、聞くよ。何の話?」

 勇はキョトンとしていた。

「前に私が『ここから出たい?』って聞いたら、勇は『出たくない!』って言ったけど…」

「あっ!それなら出たいよ。僕出たい!火菜と一緒でしょ?」

 勇の予想外の返事に、説得する手間は省けたが、なぜ?

「あっ!」

(いつか、おっちゃんと話していた時に廊下で足音が聞こえた。弥生さんが正気なら勇に教えたのかもしれない。)

「それは、お母さんにここを出なさいって言われたからかな?」

とっさに勇は

「うん!」

と返事して困った顔になった。