エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

 火菜は、やっと『児島 未来』として生きる決心をした。

 おっちゃんの話しでは、既に入学手続きも終わり、両親も待ちわびていると言う事らしかった。

 自分なりに、脱出準備もしたつもりだ。

 なるべく私が、ここに居たという痕跡は残したくない。

 中条の病気の事を聞いて、未来の事を知ってまだわずかだけど、準備に追われて、勇の事をほったらかしている。

 前に勇は、

(ここから出たくない。)

と言っていたけど、もう確実にここに居たら危ないのは、明白だ。

 どんな目に遇わされるのか、裏稼業のおっちゃんは分かってるようだが、聞いても絶対、教えてくれない。

 そして、一言

「それは死ねより辛い事。」

と言った。